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アタシとルインは、ずっと一緒にいる。 そりゃあアタシにだって予定はあるから、そばを離れるときもあるけど、けっこうずっと一緒。 最初はそりゃあ、面倒くさいヤツって思ったし疲れもしたわよ。 でも今はけっこう、いい友達だって思ってる。相変わらず無茶するところは考え物だと思いますケド!
ルインはいつも、寝相が恐ろしく良い。 というか、ほぼじっとして眠る。寒いときは丸まっているが、寝返りを打ったり寝言を言ったり等ということはない。 だからサンディもつぶされる心配もなく、一緒のベッドで眠ったりする。 カルバドで久々に過ごす寒い夜だった。その日の夜は、空を埋め尽くすほどの満天の星空を見上げ、仲間達みんなで感嘆の声を上げた。 やはりこんな景色は、大地と空の広大なカルバドならでは。 はじめて来たときは瞳を輝かせ、一晩中星を眺め、すごいすごいと数え切れないぐらいつぶやいていたルイン。 けれど、久しぶりに星屑の天蓋を見上げ、ルインはじっと立ちつくしていた。肩に載っていたサンディだけが、その身体がかすかに震えていたのを知っている。 寒いの、と訊いたと思う。すこしの間を置いてルインは、小さいが確かに怖い、とつぶやいた。 目映いほど、視界を埋め尽くすほどの星々。今にも手が届きそう。 普通であれば、仲間達のように感動して溜息を漏らすはずの絶景。実際にルインも以前はそうだったのだ。 怖い、と。ルインはつぶやいた。 そして白くなった顔色をごまかすように、ひとり早く宿屋のベッドに潜り込む。 彼女はなにも言わないでいたが、サンディは仕方ない、と恩着せがましく添い寝をしてやった。 ぽんぽんと小さな手で頭を叩いてやっていると、やがてルインの黄金は伏せられた。
「……」 何時間、経ったのだろう。常にかすかな明かりが灯されている宿屋の中も、すっかり暗い。 真夜中の静寂の中、サンディはすぐに視界が効かなかった。けれど側でルインが起きていることはわかって、手を伸ばしかけてぎくりとする。 (夜の途中で目覚めることも珍しいケド) ルインは身体を起こして泣いていた。ぽたぽたぽたぽたと、いつかのように、ただ水分を目から落とすような、無機質に見える涙だった。 サンディの知らない泣き方。思わず小さな手を伸ばし、その腕を掴んで揺する。 「ルイン」 読んでみるが反応がなかった。サンディは慌てて繰り返し呼ぶ。 何を言っても目の前にいても、反応しなかった時期。ほんの短い間のこと。 サンディは思い出して胸が騒いでたまらなくなった。 「ルイン、ねえってば!」 「…うん」 ルインの目が動く。目尻にたまっていた涙がぽつりと落ちてシーツに染みをつくった。 「我が師の夢を見たよ」 目元を擦りながら、彼女はそうつぶやいた。 夢の中でびっくりするぐらい優しくて、頭を撫でて偉いな、よく頑張っているなと誉めてくれるのだ。 そんな我が師は滅多にも見たことがない。 厳しく淡泊な、ルインの師。たったひとりの。 「最上の…私の誇り」 こんな気持ちになるなんて。思い出して恋しがるなんて。甘えたいすがりたいと、心が叫ぶような。 あのひとを引き出して、寂しくて涙するなんて、嫌だった。 こんな場面に、直面したくなんて無かった。 「本物の我が師はここにいるのに。他の我が師なんて要らない」 胸元の服を握りしめ、誰にも聞こえないような声でつぶやく。 それはうわごとのようなものかも知れない。ルインの目はすこし正気を欠いているように見えた。 あのひとの幻想をつくりだす、己の弱い心が恥ずかしくてたまらなかった。 「酷い」 腕に爪を立て、ルインは嘆いた。 「こんなの酷い」 自分の心が、大嫌い。 人間になんか、なるんじゃなかったと、口に出さずともルインの憔悴が伝わってくる。 本当に、今のルインは夢見が悪くて寝ぼけているだけなのかも知れない。 けれどだからこそ、いつも表に出さずにいる深層がかいま見えると、サンディは思うのだ。 アンタはさ、弱くなんて無いよ。 ちょっと、自分の心に鈍いケドさ。 人間になって最初に、仲間のあいつらがすっかり忘れてたもんだから、結局泣く場所失っても笑ってたの、アタシは見てるよ。 アタシが全部、アンタを見てたのよ。 アンタは強いよ、けどたぶん、もっともっと泣いて良いの。 「アンタの師匠だって、そう言うよ」 夢の中くらい、良いじゃない。今までそんなふうに、甘えたことも無かったんでショ? サンディは再び、ルインの肩を押して横たわらせると、ぽんぽんと、今度は額を撫でてやった。 ルインの瞳はふらふらと焦点をさまよいながら、やがて幼子のようにこくんと頷き、ふたたび眠りについていく。 やっぱり寝ぼけてたんじゃないのよ。 「……イザヤール」 けれど、ルインの寝顔を見つめながら、思うのだ。 この子は故郷も、最愛の師匠のことも、誰ひとりとして共有する相手を持たないのだ、と。
弱いだけのルインも時々出てくる。 でも彼女はひとりではないので明日には元通りです。
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