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人気のない回廊ではちあわせた。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 コールドナードは向かいから歩いてくる、華奢なメイドの顔を一瞥しただけで、なにも言わずに通り過ぎようとした。 何かいやみの一言くらい、投げかけてやるのも悪くはないが、あいにく自分はそこまで暇ではない。 お子様をからかって遊ぶ時間など無いと思い直して。 「いい加減にしてくださいませ」 そんな思惑も台無しに、進路をすいと前に出た少女に遮られ、足が止められる。 怪訝に思って顔を見ると、憤りをあらわにしたラピスラズリがまっすぐに見上げてきた。 「なにが言いてえんだか。どけよ、チンピラメイド」 「まあ、とぼけるおつもり!部下もろともお姉様にさんざんつきまとってご迷惑をおかけして!」 そのことか、とコールドナードは気づいてわずかに肩をすくめる。 リリー=カペラはいつだって彼女のこととなると感情をあらわに子供のように立ち振る舞う。 貴族の令嬢という出自の彼女が、こんな使用人として仕える起因となった敬愛する上司、メイド長、シエラ=ロザン。 それが、敵対する主に仕える、コールドナードの上司、マーシャル=エイドとただならぬ関係にあるという噂、いや事実はどちらの陣営にも嵐のように駆け巡り、騒然となった。 「下らないことでお忙しいお姉様を煩わせないでください。あなたもあなたですわ、かよわいお姉様をいじめるなんてっ」 「か弱い!?おいおいお前のそのでっけえ目玉は飾りか!?あの凶暴な女のどこをどう見ればそんな言葉が出てくるんだか」 「失礼な!お姉様はかよわく可憐ですてきな女性ですっ!」 下積み時代からの認識があり、コールドナードはリリーよりもシエラのことを知っている。 鼻で笑ってやると顔を真っ赤にして抗議してきた。 若干理解されがたい方向で、リリーにとってシエラは至高のひとである。 「それを言うならお前らメイド共も、侍従長に色々と言ってくれてるみてえじゃねえか?」 メイド長がか弱いかはさておいて、(か弱いわけがない)コールドナードも負けじときつい視線を投げかけてやる。 あのぐらいで堪えるマーシャルではないが、煩わしく思うのはこちらだって同じことだ。 「どうせお前のことだ、お姉様にはふさわしくないとか何とかで、ごちゃごちゃ言ってるんだろうが、俺らだって納得いかねえんだよ、ったく、マーシャルの女の趣味が悪いぜ」 「お姉様を侮辱すると許しませんわよ!そ、それにっ、わたくしはマーシャル=エイドに何か言ってはいません!」 一度きりです、と付け加えられた言葉尻に目を瞠る。嘘を吐けと決めてかかる。 「本当ですわ、わたくしはっ、お姉様の決めたことに反対はしないのです」 ふたりきり、シエラと話をした。釈然としない思いは残ったが、悔しいことにマーシャルを想うシエラの気持ちを感じてしまった。 やはり未だにマーシャルの顔などを見ると、憮然としてしまうけど、シエラを悲しませるようなことは出来ない。 「お姉様のしあわせを、阻む権利などわたくしにはありません」 「・・・・・・」 わずかに勢いを無くした眼差しを、コールドナードは静かに見下ろす。 「ですから、邪魔するようなことは、わたくしが許しませんわ」 「だったらてめえらもマーシャルに口うるさく絡むんじゃねえよ」 「そちらが先に態度を改めてくださるなら善処いたします。紳士らしい気遣いもおできにならないのかしら?」 「・・・っのチンピラ」 「・・・×××な男性よりはましです」 しばし、ばちばちと火花が散る。 「・・・・・・ふん、まあ、だんだん鎮火すんだろ。マーシャルの気が変わるわけもねえ。面白くもねえけどな」 「・・・あなた」 やがて、先に視線を逸らして呟いたのはコールドナードだった。 いつもの物言いの半分も覇気に衰える、その様子はなじみのあるものだった。 (このひとも、マーシャル=エイドを取られたようでさみしいのかしら) リリーと同じように。 「・・・・・・」 (気持ち悪いですわ) 過ぎった思考に首を振ると、リリーの柔らかな金髪がふわりと舞った。 けれど確かに、ふて腐れて悪態を吐いてしまう、コールドナードの心境は、リリーにもきっと理解できる。 そう思えば思うほど、愛らしい顔立ちが不機嫌に歪んでいく。 「なにぶっさいくな顔してやがるんだ」 「・・・本当に失礼ですわねっ、あなたは!そんな物言いしかできませんの!」 こんな時に限って、回廊には誰一人として通らない。
初クリエでコーリリ。 リリーに向かって不細工とか言っちゃえるのはコールドナードだけだといい。 (2009.4.11)
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