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今日は、ルインがいる。 リッカは、宿泊客リストの整頓をしながら、ちらと店内の様子に目を走らせた。 赤い髪と、原色の服装をしていることの多いルインは、小柄であってもすぐに目につく。 いつもこの、ルイーダの酒場でパーティを組んだ仲間たちと世界中に旅立って色々な出来事を体験しているらしい。 そしてどこに行っても、どれだけ間が開いても、ちょくちょくとセントシュタインに帰ってきてはリッカの宿屋に来てくれる。 仕事の合間の夜のひととき。お茶を飲みながらルインの旅の話をきくのはリッカにとってちょっとした恒例の楽しみだった。 (ルインたら、本職の吟遊詩人さんも顔負けな語り口で楽しませてくれちゃうんだもの。いつも夢中になっちゃう) まるで、自分まで世界を旅した気分にしてくれる。地方ごとの特色の感じられるお土産もそのひとつで、宿を飾るそれらは宿泊客にも好評だった。 (不思議な子、ルインって) 人を惹きつける魅力がある、と最初に自分が思ったとおり、彼女はとても魅力的。 すこしつかみ所のないところはあるけれど、いつもさりげなく優しいのだ。あとになってそういえば、と気がつくような気遣いは、ちょっとやそっと真似の出来ることではないと思う。 でも。 ひとたび動けば、口を開けば、はっとするような存在感を放つのに、ルインは空気に溶け込むのがとても上手だった。 いまも、何の違和感もなく酒場の客に対応する店員になりきっている。 (そうよ、お手伝いなんていいのにって言ったのに、ルインったら) 泣く幼子をあやすのに手一杯な若い母親のテーブルにそっと近寄ったかと思えば、母親の肩越しに赤子を笑わせて(後ろだから見えない、どんな顔をしてあやしたのだろう)そっと離れる。 ケンカをするカップルのテーブルに音もなく近づき、頼まれてもいないホットドリンクの差し入れをして去っていく。 くるくると立ち回るルインのゆくところ、笑顔がぱらぱらと増えていく。 「まるで魔法使いみたいじゃない?」 となりのカウンターに立つルイーダが、驚きに声を失うリッカに笑いかけた。 「ル、ルイーダさん。私、知らなかったわ!」 ルインって、ルインってすごいのね! リッカは友人の有能っぷりにすっかり興奮してはしゃぐ。 しかも、すべてにおいてさりげなく、存在感を消し去って行ってみせるのだ。 魔法といわずとしてなんと言おう!リッカやルイーダは知人であるからこそ姿を見失うことなく、その勇姿を見守ることが出来るのだ。 「あら、いけない」 と、酒場の一角の様子に気がついたルイーダが、たいして動じた様子もなく言葉を漏らした。 「うるっせえ!もっと強い酒もってこいってんだあ!」 酔っぱらいだ。 それなりに治安もよく上品なルイーダの酒場にも、世界各国から初見の客も多く現れる。 「たいへん!他にお客さんもいっぱいいるのに…!」 リッカは思わず立ち上がるが、自分ではどうしようもない。 いつもは旅慣れたルイーダがこういった客のあしらいもこなすが、隣の女主人は動く気配もなく腕を組んで微笑んでいる。 「大丈夫よ、なんと言っても…」 「ふ、ふざけんじゃねえ!」 「おっと」 またひとつ、男が投げたグラスを危なげなくキャッチする。 おそらく我を失った男が同じような行動を繰り返したのだろう、今やルインの両手は食器とグラスが絶妙な具合で積み重ねられてる。 「どこの大道芸人ー!??」 「いいぞルイルイー!やっちまえー!」 あたりの客からは、常連新参入り混じれて拍手喝采の嵐だ。 「ああ、重たい。ボクは見てのとおり小さい女の子なんだよ。こんなに持たせるなんて酷いな。じゃあ、返すよ、はいっ」 「!???う、うわあああああっっっ」 器用に指先だけ動かして放り投げ返されたマグカップに、男はすべての食器がなだれ込むとでも思ったのか、叫び声を上げて一目散に逃げ出していった。 「ちょっと、食い逃げー?っとお!」 と、自分で投げたマグカップもきちんと、足の甲でキャッチする。 うおおおおおおおお!! いつもはしっとりと落ち着いたルイーダの酒場が、今夜は歓声で沸き上がった。 「すげー、本気ですげえええ!!」 「ルイルイだてにボクッ子やってねえな!!!」 「もー、みんな酔っぱらいだなあ」 呆れてため息をつきながら、かしゃんかしゃんと腕やら肩やら頭やらに積み重なっている食器類をひとつずつテーブルに戻していく。 「ルインっ、ルイン大丈夫?」 「あ、リッカ」 居ても立ってもいられず、リッカがカウンターから飛び出して駆け寄ってきた。 「怪我はない?あんな乱暴なひとに近寄るなんて…それにもし食器が崩れてたら」 割れた破片が飛び散って、ルインは大怪我では済まなかったかも知れない。 心配されているとわかって、リッカの曇る表情に、ルインもさすがに眉尻を下げた。 「…見て、リッカ」 「え?」 促されて、店の様子を見てみる。 ルインのパフォーマンスによってか、それとも悪者を追い出したという一体感のなせるわざか、店内は皆笑顔で、そこかしこで肩を組み歌い出す始末。 「ね?」 「…もう!ごまかされないんだから!」 ルインは楽しければ何でもいいとか言いそうだけど。 「でも、ありがとうルイン。みんなを笑顔にしてくれて。あなたってやっぱり、不思議だけどとっても素敵ね」 ルインは笑顔をよりいっそう深める。心なしか、彼女を知る人が見れば、嬉しそう、な笑顔である。
「ルインさんって、女の人には優しいのですね」 「さすがねロクサーヌ。リッカは気付いてないけど気がついた?」 「気がつきますわよ…ルインさん、さっきから女性客にばかりサービスしてますもの」 「ルインが女の子だから男性客の反感もそう買ってないから良いけど、あからさまよね…まったく、いつからここまで徹底しちゃうようになったんだか」 「え?以前は違ったのですか?」 「ええ。少なくとも私がはじめて出会ったときは。女だからって特に優遇されなかったわよ」 「……」 「……ルインさん、リッカさんのこと大好きですものね」 「やっぱりそう思う?」
ルインは心の底からリッカに感謝してます。 大好きな人が笑うためならいろいろやる。
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