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…やっと、見つけたわ…
「!?」 今まさに破壊の力を解け放たんと力を集中させていたエルギオスのもとに、光がまたたき寄り添った。 (ラテーナ) ぼろぼろの身体を引きずりながら、ルインはその声に覚えがあった。 そして、ふたりは三百年の時を経て巡り会うことが出来た。 ラテーナの必死の想いが、エルギオスに流れ込み、彼の、こわばりがちがちにねじ曲がった心を解きほぐしていくのがわかった。 ――――今度こそ、あなたを救いたい… ――――絶望の闇の中でさまよう、あなたを… まぶしい光が、ふたりを包み、エルギオスの異形の姿は一瞬にしてもとの天使の姿に戻っていた。 (ああ、やっぱり) イザヤールに負けるとも劣らない、美しく大きなつばさ。金色の髪。端整な顔立ち。優しく澄んだ眼差しは、今はただラテーナに向けられているけど。 (あなたが、エルギオスさま) 「……ラテーナ、君が裏切るはずが、無かったんだ。私はなんという愚かなことを…」 美しい天使の目から、涙がこぼれ落ちる。 光を弾くような声も、悔恨の仕草も、そしてこの光景も、どんな想像よりずっとずっと素敵だ。 お互いを見つめ合っていたエルギオスとラテーナの視線が、見守っていたルインへと向けられる。 「もしおまえが 止めてくれなければ怒りと憎しみに我を忘れ、私は全世界を滅ぼしていただろう」 ルインはにこにことほほえみかけた。 (いいえ、そんなことはさせませんでしたよ。ボクがいなければ、我が師がいたもの) エルギオスがこれほど美しく、聡明な眼差しで、ルインを見てくれるのが嬉しくてたまらなかった。 姿を見るだけで、すばらしい天使であるとわかる、師の師が誇らしくてならなかった。 「……天使ルイン」 「はい」 いくらか表情を改めて、応える。天使の理にはもう縛られてはいないはずなのに、名前を呼ばれるだけでぴんと背筋が伸びた。 「お前は、我が弟子イザヤールを師を仰ぐ天使だそうだな。…あいつはよき弟子を育てた。ふがいなき師である私を許せと、そうイザヤールに伝えてくれ」 そう言われてようやく、エルギオスとラテーナを包む光が瞬きを繰り返していることに気がついた。 ルインは苦笑する。そしてすぐに、その笑顔を明るいものへとかえた。 「ご自分でお伝えください。その方がイザヤールは喜びます」 「……そうか…」 エルギオスは、目元を細め、他でもないルインへと、ほほえみかけてくれた。 そしてラテーナとふたり、見つめ合い、光となってのぼっていく。はるかかなた、星のように。 (ボクはもう言えないもの。もう、死んでも星にはなれないのだから)
………ルイン………
ふっと、意識が遠のくような感覚と共に名前を呼ばれる。 ルインが目を開けるとそこは世界樹のもとだった。 女神セレシアが、慈愛を込めた眼差しでルインを見ている。 そういえばみんなはどこに行ったのだろう。ラテーナが現れてから、何だか姿を見ていないような気がした。
悲しき魂を救い 世界を救ったのは あなたです ルイン
人であり 天使でもある あなたの よき心 よき行いが 人間たちの世界を救いました
「…エルギオスも、人間になれたならよかったのに」
セレシアの目が不思議そうに揺らぐ。 「天使に羽根もなく、輪っかもなく、ただ人間と同じように過ごすことが出来たなら…こんなことにはならなかった」
エルギオスの悲劇は もう 二度と起こることはないでしょう
「過ぎたことだから良いのですか?傷ついた心は、天使だって癒やされはしても消えはしない」
……天使たちの役目も、終わろうとしています
「終わる?」
暗い、夜のように暗いあたりに、ひとつ、またひとつと、蛍ような光がともっては漂いはじめる。 「……!あ…!」
星となった天使たちは 永遠に星空の守り人として 輝きつづけることでしょう
人間になる前のルインであれば、その輝きを美しく思ったかも知れない。 そして何の疑問もなく、その事実を受け入れていたかも知れない。 けれど今のルインは、人間である。
ルインが一人前になったと誉めてくれたオムイも、ずっと幼い頃からイザヤールと面倒を見てくれたラフェットも、話す機会が減ると寂しがってくれたその弟子も。 その輝きの中にいるのだ。
「――――いやだ!」
心が引き裂かれそうに痛み、ルインは叫んでいた。 嫌だいやだいやだ、これ以上の別れはもういや!
セレシアは表情を変えない。 むしろ駄々をこねる子どものルインをあやすように、うたうように囁き続ける。
けれどルイン…… あなたには別の役目があります
懐かしい汽笛が鳴り、輝きの尾を引きながら天の箱船がやってくる。
ルイン あなたは人間として 人間たちの世界の守り人になってください……
「どうして!」
「どうして!なぜ、だったらなんで天使を作ったの。天使はなんのためにあったの。いいじゃない、人間と一緒に生きていったらいいじゃない!守護しなくたって、ウォルロ村の地震で壊れた教会の鐘は直ったけど、馬にお嫁さんも来たけど、私はちっともいやじゃなかった! 人間はおろかとかまちがえるとか、天使だっておんなじじゃない!心の綺麗な人もそうじゃない人も、みんな、みんなちがうから…!」 言葉が、 訳のわからないまま零して急いで伝えようとするから、ルインの言葉はまとまりもなくただ、想いになって溢れるだけだ。
星が舞う、星が舞う。 両手を広げてみんなに叫ぶ。 「じゃあ私も連れてって!連れてって!みんなと一緒に行くから、星になるから!」 私は人間だけど、天使だった。 この場所でうまれたのだ。綺麗な羽根をもつ、イザヤールの弟子になったのだ。 「どうして、私だけみんなといられないの」 箱船からアギロが下りてきて、セレシアに促され手を引かれる。 星が舞う、星が舞う。私たちを囲うように。 (ルイン) それは、知ってる誰かの声に似ているようでも、まったく知らない人の声のようにも聞こえた。
(ルイン、ルイン)
(ありがとうルイン)
(ずっといるよ) (そばにいる)
(もう姿は見えないけど) (もうお喋りも出来ないけど)
(ルインのことをずっと見てるよ)
「………っ」 星が囁く。星が囁く。 声を詰まらせたルインは、箱船に乗り込むアギロに続こうとして、セレシアと目があった。
……お行きなさい ルイン あなたの… 人間の世界へと
「……」 頷いた。 酷いことを言ってしまったような罪悪感に、女神様に笑顔を向けようとしたのに出来なかった。
……ありがとう…
それでも女神セレシアは、変わらないあたたかな微笑みを向けて、そう、告げる。 箱船は走り出す。 漂っていた星たちは、一斉に空へとのぼり、そして散らばっていった。 (人間は) こんなに、心をすり減らすみたいに使い切って、それでも生きていくなんて冗談みたいだ。 (すごいなあ…) それが、人間になった天使ルインが、箱船の中で意識を失い倒れながら、頭に浮かべたことだった。
目が醒めたら、またきっと別れが待っている。 ほんとうの人間になったらまず、仲間たちに泣き方を教わりに行こう。
(我が名は破滅 終わり)
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