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世界中を旅するのなら、海路の交通手段を入手することが必要になってくる。 「船があった方が良いな」 旅を続けるガトゥーザ達の、今後の課題のひとつになっていた。 大陸を縦断し、のどかな花畑を眺めつつたどり着いた街サンマロウに、船があるという情報を手に入れた。 「安く買えると良いけど。多少ぼろくても良いから」 なにせ船だ。堅実に節制して旅を続ける彼らには普段なら考えつかないような値が付くだろう。 「いくらぐるいするんだろう」 「ピンからキリだよ。気前の良い大富豪なら中古を格安で譲ってくれることもあるんじゃない」 キオリリの途方に暮れる呟きに、意外にもオマールがさらっと答える。 「オマール。船の相場に詳しいんだ?」 「まあ。といっても十万単位は下らないだろうけど」 だったらボクのへそくりを崩すしかないかなあ。ルインはひとり、自分のがま口財布をのぞき込んで思案に暮れていた。 ルインは意外にも貯蓄している。ひとりで独占しているわけではなく、みんなが必要になったときは惜しげもなく使うが、こういう時は路上手品ショーや酒場のバイトもバカにならない小遣い稼ぎだったといえる。 「まあ、そん時ゃそん時考えるとするか」 4人は、街の影が見えてくるごとに、次第に歓声を上げだした。 おーとかうわーとか。ピンクの魔法使いはいつも通りに呆れたように嘆息するのみ。 遠くからも、高いマストと船影が確認できる。船がある。
サンマロウは急発展を遂げた街らしく、新しい建物が並ぶ、今までのどの街よりも栄えた豊かさを思わせるところだった。セントシュタイン以来の都会だ。 早速船が停泊している桟橋まで向かう。 船の持ち主に譲ってもらえる船はないか、もしくは借りられないかと話を付けてもらうため、船番をしている老人に声を掛ける。 「お前さん達、船が欲しいのかね?この船はもうずいぶん動いとらん。ワシも使ってくれるという申し出は有り難い」 気の良い笑顔を浮かべた老人は、あっけないほど好意的に船を譲ってくれそうだ。 「今の持ち主はお屋敷のお嬢様のマキナ様じゃ。ほれっ、あの高台の屋敷に住んでおる。お優しいマキナ様のことだから、こころよく譲ってくださるじゃろう」 「じゃあ、そのお嬢様のところにお願いに行ってくるよ。ありがとう、おじいさん」 近くで見れば見るほど立派な帆船を見上げ、あまりにも簡単に話が進んでしまってガトゥーザなどはしかめっ面だ。 「いや…いくらなんでも虫が良すぎないか?俺たち今日ここを訪れたばかりの旅人にすぎないんだが。マジか?マジでただで譲ってくれんのか?」 「ありがとうって一杯言えば良いんじゃないかな」 「う、うん。ありがとうは大事よね」 「金持ちは奇特なやつが多いんだよ。あの屋敷ならあり得るんじゃない」 がくぶるする庶民ガトゥーザとキオリリ。ルインは相変わらず平然と、オマールにいたっては訳知りな発言をする。 「…ってお前、さっきから思ってたんだがサンマロウに来たことがあんのか?」 「…あるけど」 「しかも今から交渉に行くお屋敷とも面識があるみたい?」 ガトゥーザとキオリリが、二人目配せあって、珍しくオマールに詰め寄る。 「じゃあ、話付けてくるの頼んだ!」 「アタシたちは各々船旅の準備とか買い出ししてるから!」 「……今明らかに面倒ごとを押しつけたよね」 両肩をそれぞれにポンされて、オマールは迷惑そうな空気を隠しもしなかったが、結局固辞することもなかった。 金持ちの家、というのはお城と同じく無条件に緊張してしまう、ガトゥーザもキオリリもそんなところがある。 「じゃあ、行こう」 ルインが宣言して、先を行く。オマールは今さらというべきか、溜息をついた。 「君も着いてくるの」 「うんお嬢様にありがとうって言わなくちゃね」 いつもの真顔で淡々と言う。
高台の屋敷に住むマキナは、偉大な商人だった父とその妻、両親を亡くし、使用人達と暮らしていたのだという。 だが最近になって、「金色の果実」を食べたとたん病弱な身体が丈夫になり、すっかり元気になった。 と、思ったら使用人のすべてをクビにして、今はひとりで暮らしているという豹変ぶり。 招かれた街の人たちは「お友達」になれば、どんなものでも贈ってもらえるのだという。 サンマロウでマキナお嬢様のことを話題に上らせる人は多かった。 また金色の果実か。ガトゥーザはその一点において、ルインとオマールに気をつけろよ、と言ってくれた。やはり一緒に来てはくれないが。 「何でもくれるなんて豪気だね」 「……」 門番に事情を説明し、船番の紹介と言えばこころよく通してもらえた。 屋敷内は広く、趣味の良い内装だったが閑散としており掃除すら行き届いていないようだった。廊下の端で埃が転がっている。 お嬢様が客と話しているという私室に向かう。話し声が聞こえてきた。 男と女の二人が、マキナお嬢様らしき人物とやりとりをしているらしい。 男はケーキを贈ったが花瓶に飾っておくと言われ、女は今しているのものと新しいリボンを取り替えようとして、絶交を言い渡されている。 ずいぶんと風変わりな会話展開。 「…不思議な感じ」 ルインは瞳を瞬いて、隣のオマールを見上げた。 オマールは無言で、いつも通りの猫目。表情はうかがい知れない。 ノックをして、入室する。 「だあれ?あたらしいお友だち?」 その姿よりも、ずっとおさない印象を受ける、赤いドレスの少女がゆっくりと首を傾げている。 このひとがマキナお嬢様。とルインはじっとその瞳を見つめ返したのだが、ふと、オマールの身体が強ばったのに気付いて横目で見上げる。 「………」 オマールは何も言わなかった。ルインは気になったが、とりあえずマキナに視線を移した。 「こんにちは、マキナ。ボクはルイン。旅芸人をしているよ」 「まあ、ごきげんよう。あなた、はじめて会う方ね?」 「うん。いきなりで申し訳ないんだけど、この街の港に船があるよね?あれ、マキナが持ってるんだよね」 ルインは名乗ると、座るマキナに目線を合わせるべく膝を着いた。客人がいるのでソファには掛けず。 マキナはきょとんと瞳を瞬く。その仕草は本当におさない。 「…え?船?船が欲しいの?」 「うん」 素直に頷くと、マキナはひとつ瞬きを返して。 「いいわ、あげる。どこへでも持って行って。そのかわり、わたしのお友だちに…」 ふ、と、ずっとルインと見つめ合っていたマキナは、何かに気がついたように、改めてきいろの瞳をのぞき込む。 さっ、と無垢だった表情にかげりがよぎる。険、とも言うべきもの。 「あなた…あなたは…町の人たちと違う…マキナを…迎えに来たのね?」 「むかえ?」 ただ、ルインは反芻する。 一瞬頭に浮かんだのは、天使の自分のつとめのひとつ。亡き人の魂をのぼらせてあげること。 (あれ…?そうか) 「ぜったいにダメ!!わたし、あなたキライ!」 突然かんしゃくを起こすように、マキナは声を上げてルインを拒絶する。 「あなたなんかお友だちじゃないわ。やっぱり船もあげない!帰って!!みんな出て行って!!あなたたちもよ!!」 甲高い声でマキナが叫ぶ。 不満や不安をにじませながら、客達もマキナにいとまを告げ、ばたばたと部屋をあとにする。 ルインはなおも、じっとマキナの感情の高ぶりを眺めていたが、そのまま背を向けた。 ずっと無言のまま部屋にいたオマールは、やがて息を荒くしたマキナが、自分の姿に気がついて顔を上げるのを待って、ようやく口を開く。 「マキナが君に望んだの?偽物マキナ」 「…なあに?」 先ほどの怒りなど一瞬で消えたかのように、ふしぎそうに首を傾げる。 「オマール?」 彼はもう何も言わず、名を呼ばれ背を向けて退室した。
「オマール?」 ひとり、部屋の中マキナは名前を呟く。 聴いたことのある、名前だった。 大好きなお友だちの、お話の中に出てきた名前だ。
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