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ルインは昼中であっても薄暗い路地裏で、ふたりの男女を眺めながら口を開いた。 「どうしてあのままだったの?」 「ハア?」 問いは先ほどまでフードを被っていた、ガトゥーザと呼ばれる男に向けてだ。 緑の髪を額の上で固めており、精悍な顔立ちがあらわにしかめられる。 ルインは説明不足を自覚しており、動じた風もなく改めて言い換えた。 「人質がいたのに、構わずに足を進めたのはなぜなのかなって」 「……こいつが潜んでたんだよ、犯人が俺に気を取られているうちにいつだってガキは助けられる」 やや前に出て、後ろの女性を親指で示す。もともとそのつもりだった。 彼女が行動に出るより、先にガトゥーザが気絶させる結果になったのだが。 「でも万が一のことがあるじゃない。見てる人たちは不安そうだった」 子供の母親などは、気が気ではなかっただろう。 「んだよ、おい、チビ。無事に助かったんだからいーだろうが。なんかいちゃモンつけに来たのかよ?」 「ガトゥーザ。子供相手に口が悪いよ」 よかれと思ってしたことに、けちをつけられたようでガトゥーザは気分を害した。 少女といえど遠慮無く睨み下ろすが、やはりルインはいたって平静な様子で、大きな瞳をまたたいた。 「ううん、べつに」 ききたかっただけ、どうもありがとう。などと述べると、ふたりを追い越しすたすたと先に行ってしまう。 「な、なんなんだ」 「…変わった子ね」 若干毒気を抜かれるようになりながら、ふたりも同じ道を行く。 「……」 「……」 「……ついてくんなよ」 やがて裏路地を抜け日射しのあたる表通りに出ても、三人は同じ道を歩き続ける。 「え?だって」 やがてガトゥーザとルインは、同時にルイーダの酒場の戸をくぐった。 「ボクの目的地もここだし」 「ボクッ子!?」 「ボクッ子かよ!!」 なんかすごい勢いで驚かれた。 「あら、あなた達一緒だったの。ちょうどいいわ」 騒がしく開かれた戸口に顔を上げたルイーダが、笑顔でこちらへいらっしゃいと手招いている。 「…なんだよルイーダさんよ。用があるってんで来てやったんだぜ」 「そうよ、ガトゥーザ。あなた一緒に旅する仲間を捜していたでしょう」 「ええ、アタシたちと一緒に旅する仲間。見つかったんですか?」 「その子がそうなのよ、キオリリ」 ルイーダは素敵な微笑みを浮かべ、ウインクをひとつした。 「……」 「……えっ」 二人はそろって、後ろに立つルインをじっっ、と眺め。 「……ルイーダさん、子守は勘弁。」 「かわいいことは確かなんだけど、うん、結構過酷な旅になる予定なんだよ」 とても落胆した様子で首を振る。 「あらあら」 「さんざんな言われようだね、ルイーダさん」 「「「てめー(きみ)(アンタ)のことだよ!」」」 三方からすかさず突っ込みが来た。(一方はサンディ) ルインは解ってるよ、と言いながら何だか楽しくなってふふ、と微笑みを浮かべる。 「まあまあ、ふたりとも。ルインはこう見えて戦闘も慣れているしなかなか器用な子なのよ?ルインだって、仲間を探しに来てくれたのよね?」 「そうだよ」 「だったらすこし、話だけでもしなさいな。私の見る目は確かよ?あなた達、きっといいパーティーになるわ」
ルイーダに薦められ、ルインたちは同じ席で昼食を一緒に摂ることになった。 各自注文をして、料理を待つ間自己紹介から始まる。 「えっと、じゃあアタシからね。アタシはキオリリ。ベクセリアから来た戦士よ」 「……同じくガトゥーザ。そーりょ」 いかにもぞんざいな感じで告げるガトゥーザにキオリリはため息をつく。 ルインはそんなふたりをキオリリ、ガトゥーザ、と改めて認識して。 「ボクはルイン。ただのルイン」 我ながらにこやかに出来たと思う笑顔で名乗る。 「あ??ただのルインってなんだそりゃ」 「いまは旅芸人って事になってるけど」 先に運ばれてきたホットミルクのカップを両手で抱えてこくこくとすする。 (胡散臭すぎる…!) ガトゥーザの眉間の皺が深くなったことを知ってか知らずか、また、自分が得体知れずであることを解っているのか、ルインの調子はいたってのほほんとしたものだった。 「…まー、他人の事情根掘り葉掘りなんざ野暮だしな。で、お前何が出来る?」 「……手品?」 考えるように首を傾げ、とりあえず真っ先にその答えが口をついて出た。 ぽん、ぽぽん、とルインはカップを抱えたままに見えるのに、三人のついたテーブルの上に造花が飾られ紙吹雪が舞う。 「わ、すごいすごい!」 「キオ、喜んでんじゃねえ!」 「あとは火も吹けるかなあ」 熱くなるので気が進まないのだが。 ウォルロ村でうっかり旅芸人の振りをはじめたのがきっかけで、ルインの芸は日に日に磨かれていく一方だった。 もともとこういう目くらましのような仕草は得意だったが、なんかこのままこれだけで生きて行けそうな熟達ぶりである。 (というかボクの性に合ってるんだよ、旅芸人。もうちょっと色々出来るようになったら我が師に自慢しよう) 「もっと、なんつーか、旅に役立てそうな特技は?」 ガトゥーザはこめかみを震わせながら、それでも辛抱強く情報を求める。 「剣と呪文がすこし。手先はわりと器用だよ。あとは道具とか好き」 ルインも求めているような答えをちゃんと返す。今までの返答とてわざとではない。 人間界で真っ先に身に付いたものが手品だったのである。 「ふーん…補助系か、悪くても道具係としては良いかもな」 「攻撃と回復両方出来るなら良いんじゃない?アタシは別にいいよ」 手品に喜んで、じゃねえだろうな、とガトゥーザはじとっとキオリリを睨み据えるが、まあ主戦力の戦士が言うのだから声高に反対することもないだろう。 若干、性格に微妙な難があるようだが。 「…まー、じゃあとりあえず組んでみっか?ルイーダさんの見立てだしな」 正直、やっと仲間が増えるという喜びはごく少ない。ガトゥーザがそんな内心をありありと隠しもせずに告げた言葉に、旅芸人の少女は。 ルインは、にっこりと微笑んだ。 「ふふ。嬉しいなあ」 「……」 「……」 思わずキオリリとガトゥーザが、言葉を見失う程度に屈託のない笑顔である。 (性格に若干の難あり…が) 気持ちの悪いような性格ではないので、まあよしとするか。 「よろしくね!アタシはキオリリって呼んで良いよ」 「うん、よろしく」 女性ふたりが握手を交わしていると、ようやく料理が運ばれてくる。 「よし、そうと決まったらメシ食って準備して出発すんぞ!」 「おーっ」 ノリよくルインが先に声を上げ、キオリリは早くもうまくやっていけそうと安堵する。 「じゃあチビ!パーティー結成の祝いに乾杯だ。音頭を取れ」 「温度?ああ、かんぱーいってやるや」 「かんぱーい!!」 確認の途中で本番にされてしまった。早っ!サンディのささやきが聞こえるが、ルインはにこにこしたまま二杯目のコップに口を付けた。 (あ、ミルクじゃない。でもおいしい) 「チビ、食ってるか!?食わなきゃ永遠にチビのまんまだぞ!!」 「ちび?」 さっきからなぜかガトゥーザにそう呼ばれているので、ルインは目を上げて訊き返す。 「あ?チビだろ??それででかいつもりか」 「……うんチビだね」 「納得(するんかい!)しちゃうの!?」 またすかさず突っ込みが入る。(一方はサンディ)。 そんな流れで、ガトゥーザとキオリリとルインはパーティーを結成し、ルインはチビと呼ばれ、この日からカフェオレをこよなく愛するようになる。 ピンクの髪の魔法使いが加わるのは、あともう少し先の話。
ルインは道具袋係(練金も担当) 「何が出来る?」「手品」の流れが書きたかったんです(笑)
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