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ナザム村からドミールまで ぶつ切りでお送りしてます
(我が師はひとりで何かをしようとしてるんだな) (我が師、我が師の助けになるよう動かなくちゃ)
これまた排他の空気の色濃い、ナザムの村でルインは目覚め、起きあがってすぐそう思考した。 唯一好意的に接してくれ、看護にも熱心に当たってくれたらしい、村の少年ティルに心からの感謝を述べる。 リッカに出会ったときも驚いたものだが、やはり人間に助けられると感慨深い。 天使界では人間を見下し侮っている者が多いから、話をしたならショックを受けるものも多いのではないかと思う。 (愚かで浅はか、弱い人間) 天使が護り、正しく導いてやれねばすぐに道を誤り愚行を冒す。 そんな考えと風潮が主だ。ルインはそこまで思ったことはなかったが、やはり触れてみなければ解らないことは多かった。 そして、こうして人間に助けられ、快復を喜ばれると、心の底からしあわせな気持ちになる。 (ボクからも感謝のオーラが出ればいいのに) けれど人間にそんなものを見る目はないので、実際に出ていたとしても意味が無く、ルインは丁寧に頭を下げて感謝を示すことを覚えた。 「ありがとう、ティル。君のおかげでこんなに元気になれたよ。ボクはこう見えても色々出来るんだよ。お礼に何でもするよ。何をしよう?ティルは何をしたら喜ぶだろう?」 「ルインさんって元気になったら良くしゃべるね!本当に良かった!お礼なんて良いよ」 小さなティル(ルインとそう背丈は変わらないが)でさえ、見返りを求めて助けたのではないと笑うのだ。 (いいなあ) ルインは自らが感謝のオーラで満たされるような心地になりながら、旅の道中で得た色々な手品を披露して見せた。ティルは歓声を上げ、手を叩いて喜んでくれた。 そうしているうちに村の子供たちが集まり、ルインはすっかり子供たちの人気を得ることが出来たのだが、やがておのおのの親たちが険しい顔で子供たちを家へ連れ帰り、ティルとふたりが残された。 「ボクも、もともとはよその街から来たんだ…」 「そっか、じゃあよそ者同士だね」 ティルがいてくれて良かった。ボクがひとりにならずに済む。にこにこと笑いかけると、うつむいていたティルもすこし笑い返してくれた。 傷がもうじき完全に癒える。
山をいくつもいくつも超えて、ようやく辿り着いた隠れ里ドミールで、ルインはひとりで、英雄に再び会いに来ていた。 渡された酒の壷は両手で抱えてやっとと言うほど大きい。さすが龍サイズだ。 何とか到達すると、遅すぎると文句を言いながら、英雄は一度目よりもいくらか態度を軟化させていた。 名前を訊かれた。 「ルインだよ」 「ふむ、ルインか。やはり間抜けな……ルイン、か」 「うん」 なぜ、英雄グレイナルが自らの言葉を切ったのか、ルインはもうすでに調べていたので知っていた。 「いやな気分になる名前だの」 「ごめんなさい」 それは申し訳なく思うので、ルインは素直に謝った。しかしいつも通りの淡々とした口調になったので、英雄の機嫌は悪化した。 ここぞとばかりに手みやげの酒を与えると、速攻で上機嫌になって龍は巨躯を揺らしてはしゃいでいる。 ちょっと可愛いぞ、などと不謹慎に思いながら眺める。龍は、白銀の体躯といい豊かなたてがみといい美しく、そこかしこに年季を感じさせたがルインの目を楽しませた。 (見てるだけでもいいや) ここに来た目的さえ忘れるほど見入っていると、グレイナルが酒気に帯びた眼差しながら、強い視線を寄越してきた。 「貴様、天使のくせに胡散臭い気がまとわりついておるようじゃの。胸くそが悪くなる」 「グレイナルは酒臭いよね」 かーっと熱風のような息を吐きかけられた。ルインは気を悪くした様子もなくふふ、と笑う。 「あなたもひとが好きなんだね」 天使が嫌いでも。 「このドミールが好きなんだね。とても慕われているんだね」 里の人々と話せば、手に取るように伝わってくる。 「ボクもひとが好きだよ。人間が大好きだよ」 グレイナルの眼が怪訝そうに細められる。ルインは構わずに笑いかける。 「意外と気が合うかもね」
そう告げたのが、ほんの少しの前のことなのに。 (グレイナル) 振り落とされて、反射的に背筋を意識したが、やはり翼はない。 手を伸ばしても、重力に逆らうことなく落ちていく。
「生きよ」 (グレイナル、グレイナル) あまりにもすさまじく華々しい最期を目に焼き付ける。 生きよ。身体をいたわれるのとおなじぐらい嬉しい言葉に、グレイナル、どうしたら感謝の気持ちが届けられるの。
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