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「リッカー」 いつも通り宿屋のカウンターで接客をこなしていたリッカは、突然目の前にあらわれたオレンジの形相に目をまん丸に見開いた。 「きゃあっ!?な、なに?誰?」 「ふふ、誰だかわかるかなあ?」 わざと、元の声よりも低く落として囁くが、リッカはその口調と、他の人よりもずいぶん華奢な体型を見て取ってほっと胸をなで下ろした。 「なんだ、ルインなのね。驚いちゃった」 「ちぇ、もうばれちゃった」 言いながらルインはカボチャの頭を取って、それでも楽しげな笑顔を向ける。 「ハロウィンって言うんだっけ、ロクさんのお店で売ってたから、面白そうだから買ったの!」 「ルインは初めてなの?セントシュタインでは毎年大規模なお祭りがあるみたいだから、楽しんできたらいいわ。私も予約がいっぱいだから、ここのところ忙しいんだけど、がんばらなくちゃね!」 握り拳をつくり、気丈に笑うリッカの笑顔を、カウンターに身を乗り出して見上げる。 「そっかー、リッカ忙しいんだね」 つまんないなあと思ったが、いつも通りに口に出すことはしなかった。 立ち上がり、置いていたパンプキンヘッドを再び被る。リッカはその様子に首をかしげた。 「じゃあボクが、いつもみたいに呼び込み行ってくるよ!この格好だとさらに目立ちそうだしー」 「…いいの?もちろんそれは嬉しいけど、ルインいつも旅でつかれてるんだから、お祭りで遊びたいんじゃない?」 「いいよ、この頭でもお祭りは見えるもん」 昔から、ルインは人々を観察するのが好きだ。楽しんでいたり熱中していたり、とにかく見ているのが好きなのだ。 参加するのも楽しそうだが、とりあえず今回は仮装だけで十分、祭りを満喫できるだろう。 「なら、お願いしちゃおうかな?あ、でも遊びに行きたくなったらいっていいからね?」 「うんうん、じゃあ、早速看板持って行ってきまーす」 「え、あっ、ルインー!待って!パンプキンヘッドとドラゴンメイルはちょっと…!」 オーナーによるストップがかかったので、装備品袋の中から仲間たちにも衣装を見繕ってもらい、ルインはきれいなベストを身につけていくことになった。 「この頭でお洒落に気を遣うのも変な話だけどね」 「あ、でもすごくいいよ!格好いい!ルインは顔が可愛いからいつもはこんな格好ってあんまりしないけどっ」 リッカのフォローだか何だか微妙な太鼓判を押され、ルインは籠いっぱいのお菓子と宿屋の看板(ハロウィンバージョン)を持たされ、呼び込みに向かったのだった。 夜を目前にしたセントシュタイン城下町は、仮装行列と黒やオレンジの装飾で溢れていた。 店の軒先にも抑えめの電飾や夜をイメージしたカーテン、この日のために作られたラッピングのお菓子。 子供たちは家々を回ってトリックオアトリートの大合唱だ。 「あ、カボチャー!お菓子くれなきゃイタズラするぞー!」 バンシーの仮装をした子供たちの集団が、早速ルインを見つけて突撃してくる。 ルインはお菓子を配ってやりながら、カボチャの奥でにやりと笑みを作った。 「リッカの宿屋に泊まってくれなきゃ、ボクがみんなの家に回ってイタズラするぞー?くっくっく」 ことさら声を潜めて。 「……!」 子供たちは引きつった笑顔を浮かべ、皆一様にこくこく頷き、一目散に逃げていった。 「…アンタアレ客逃がしてんじゃないの。そんで無駄に演技派なんですケド」 「くっくっく」 なんかキャラがツボったらしい。サンディの小さな突っ込みに、低い笑いを漏らしてとぼける。 そうして、脅したり笑われたり、カボチャ頭をばしばし叩かれたりしながら、籠のお菓子はすべて無くなってしまった。 夜はとっぷりと更けていて、仮装行列を終えた子供たちも次第に家に戻りパーティーを始めている。 「…ねえ、もうそろそろ戻っていいんじゃないのー?宿屋でもパーティ始まってる頃でショ。おなかすいたんですケド!」 「そうだね」 夜の、けれど灯りには窮しない街をカボチャ頭を揺らして歩く。 そこかしこで談笑とロマンティックな音楽、歌声が奏でられる。 降りる前から、降りてからは尚更、地上界についてずいぶんと学んだ、知識だけは詰め込まれているルインの頭はふわふわと落ち着かない思考を巡らせる。 陽気な祭りだなあ、謂われの割に。とか。 視界の端々に紛れ込む半透明のこの世ならざる人たちも、やっぱり笑顔だなあ、とか。 (――――我が師) 夜空を見上げて星を探して、彼方からお菓子が降っては来ないだろうかとか。 (ボクの分のお菓子は要らない。ひとつも要らない) 空っぽの籠を、意味もなく本当に空っぽであるか確かめて、カボチャ頭は宿屋へと帰路についた。
後ろ向きな思考ではなく、初めてのハロウィンを外側から体験したい、と思ったらこうなた、というルインの話。
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