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うちのパーティーメンバー、天使界関連のことにはことごとくノータッチで、サンディのことも知りません、という設定です。
「イザヤールがようやく弟子を取ったと聞き、どれほど有能な天使かと思えば」 天使界は広いようで、狭い。 「才などどこにも見いだせない、人間のように欠陥の多い、身体の弱い天使だと聞く」 聞きたくなくとも風評や私意思惑が、耳に入ってくる。 「それに、聞いたことがあるぞ、その天使の問題はそれだけではない…」 聞きたくないことでも、知らなくても良かったんじゃないかと言うことでも。 ルインは耳に入れていたし、遙か昔から知っていた。 「オムイ様の言いつけで、イザヤールが監視監督をすることになったんだろう?」 もちろん、確認を取ったことなど無いから、真偽も何もかもわからずじまいだ。 ただ、ルインは自分が天使界にとって良くないものであったらしい、ことは知っていた。
落ちたとき、これがその答えなのかと思った。 我が師に斬られても、取り乱さずいられたのはそういう側面もある。 ルインはいつ何時も、イザヤールに殺される覚悟が出来ていた。 ただ、この世界を好きになった。天使として過ごしていたときよりずっと、人間のことをいとおしく思うようになっていた。
―――――世界を救えるのはあなただけ。エルギオスを、止めてください。
世界樹に新たに実った金色の果実が、両手の平に落ちてきた。 (…人間に) いつか自分は世界を滅ぼすんじゃないかと思っていたら、目の前には真逆の道が示されている。 天使をやめて人間になる、ということに意外と抵抗はなかった。 ルインはここ最近ずっと、天使の自分に違和感を感じていたのだから。 「―――時間をください」 果実をそっと仕舞い込んで、ルインは箱船へと駆け込んだ。
「――――ルイン!」 ちょうど旅立つ冒険者たちを玄関先で見送ったところだったらしい。 セントシュタインの宿屋の前で、真っ先に気がついて声を上げたのはリッカだった。 「おかえりなさい!ずいぶん顔を見せなかったけど、どうしたの?」 駆け寄って、顔をのぞき込むように微笑まれて、ルインは一瞬逡巡したが。 「ただいま、リッカ。うんいやさあ、色々忙しくってね…」 すぐにいつも通りの笑顔を浮かべることが出来た。 とりあえずゆっくりしていってと手を引かれ、懐かしい宿屋、酒場のいつもの席へと向かう。 「おっ?」 「あー!ルインじゃん」 「なんだ、まだ生きてたのか」 「みんなこそ相変わらず生きてるねー」 出会い頭に容赦のないことを言われるが、これがいつもの彼らだった。 ルインが果実集めをしている間、世界中の色々なところを一緒に旅して回ってくれた。 「おい、おいおい、ずいぶん久しぶりじゃねえか!ちったあ背伸びたか!」 一番年上のガトゥーザが、早速席を立ち寄ってきて、ルインの頭をばっしばしと叩く。 むしろ縮みそうだ。ルインはあははと笑いながらもすねを蹴り飛ばして抗議した。 まあそれも、いつも通りのやりとりである。 ひとしきり再会を喜ぶ(?)段階が落ち着くと、テーブルを囲んで懐かしの食卓を囲むことになった。ちょうど食事時だったこともある。 いつも旅していた間と、同じ席順。好みのメニュー。心得ている宿側が、気を利かせてどんどんと運んできてくれる。 「パンケーキとカフェオレ!」 「メシだってんのにチビはやっぱソレか!」 「リッカのとこきたらこれだよ!パンケーキパンケーキ」 ルインにしては珍しく、興奮気味にはしゃいでしまう。人間界に降りてからだが、三食パンケーキでも構わないほど、好物なのだった。 そしていつも通り、冗談交じりのお喋りや、ひとのおかずを横から奪ったり譲ったり、賑やかな食事を終え、やがてそれぞれの前にはお茶だけが残っている。 「……さて、ボクが久々にみんなに会いに来たのはもちろん訳がある」 「そんなこと知ってるよ、勿体ぶらずに話しなよ、まどろっこい」 いきなりルインが雰囲気を変えて告げても、今更動じるものは誰もいない。オマールは先ほどから苛立たしささえにじませて、急かしてくるほどだ。 「とりあえず、前からすこし話してたと思うけど、実家のほうで色々大変そうなので、ボクはこれから忙しくなる。たぶん、もうみんなと会えなくなると思う。ソレを伝えに来たんだよ」 ルインはいたって短く簡潔に、要点のみと言っていい勢いでそう告げた。 「……」 「……」 「……で?」 三人の仲間たちはおのおのの思惑をにじませてルインの顔を見ていたが、やがて先を促したのはやはりリーダーでもあるガトゥーザだ。 「で?って何。うん、それだけ。今までありがとう、元気でねーって」 軽ッッ。本当になんの感慨もなく、いたってルインらしく告げられて、キオリリとオマールは口の端やらこめかみやらを震わせた。 「……ルイン、それだけ?」 「え?」 キオリリに問われ、首をかしげる。 「アタシたちには、それだけ?」 「え?うん、いきなりで悪いと思ったんだけどね。みんなとの旅は楽しかったよ、本当に」 だんっっ!! 突然、ガトゥーザがテーブルを叩き付け、その振動でグラスが跳ねた。 「もういい」 がたん、と音を立て立ち上がる。ルインが見上げている間にも、彼は荷物と槍を抱え席を離れていく。 その目の前で、オマールが同じように立ち上がり、やがてキオリリも席を立った。 先ほどまで賑やかにあたたかだったテーブルは、あっという間にルインひとりになった。 (元気でね、ほんとにね) それでも何だか、すぐに席を立つ気になれずにコップの中でぬるくなったミルクをふらふらと揺らしてみる。 ああ、早く立って宿を出なくちゃなあ。リッカやルイーダに気付かれたらなんて思われるか、心配をかけては元も子もないじゃないか。 最後に、宿のみんなに一声かけていくくらいは許されるだろうか。 リッカに笑顔で行ってきますと言いたかった。どんなに忙しくても行ってらっしゃいと言ってくれるそれをルインは大好きだった。 「……!?」 がつん、かけていた椅子が盛大に揺れてルインは飛び上がった。椅子の脚を蹴られたのだ。 「オイ、いつまでぼさっとしてんだ」 振り返るまでもなく解ったが、びっくりして見上げると腕を組んでふんぞり返るガトゥーザ、その後ろにはキオリリとオマール。 なぜかみんな、旅支度をきっちりと終えている。 「今からどっか行くの?」 間抜けな問いが思わず口から漏れた。ガトゥーザはむしろ不思議そうに眉を寄せて、何言ってやがる、とでも言いたげに。 「空の上だろ?」 ―――――――――信じていなかったのに。 何でもないように、彼らは当然の顔をして。 「まあ、やっと話してくれるかな、と思ったけど甘かったみたいね」 「どうだっていいよ、君がなんであろうと面倒くさいことに変わりはないんだから」 「そうそう、この期に及んでおまえがオクトパスだろうがギガンテスだろうがじごくのメンドーサだろうが驚きゃしねえよ」 ちなみに、じごくのメンドーサはガトゥーザが大嫌いなモンスターだ。 ガトゥーザはいまだ呆然と目を見開いたままのルインにずいっと顔を突きつけ、両手で襟を掴み上げる。 「おいチビ。おまえ今までなんで四人で旅してきたと思ってんだ?」 「前衛が攻撃防いでる間に呪文唱えて戦いやすくしたり」 「道に迷ったり遺跡の謎解きで詰まっても、意見を言い合って解決できたりするからよね」 「そーだよ!効率よくコトを進めるためにってことだ!で、ナニか?力も弱い、攻撃呪文も弱い、素早さと器用さだけのルインさんは大変なお家騒動をひとりで乗り切れるのか?」 「………」 ガトゥーザが何を言おうとしているのかは、ルインにも解る。だがどうも、すごくメンチを切られているので無言でにらみ返してしまう。 「素直に言えばいいのに…」 「無理じゃない」 「うっせーそこ!で、どーなんだよ、それが解ってて、俺たちが邪魔だってか!?」 「うん、邪魔」 ルインは一息に告げると、頭を振り上げてガトゥーザの額に頭突きを食らわせた。 「…ッってえ…ッ!」 その隙に掴まれていた腕をすり抜け、ルインは椅子を飛び降り駆け出す。 「おい、チビ捕まえろ!逃がすか!」 「残念、仰るとおり素早さにだけは自信があるんだ」 どうやらあちらも本気のようで、臨戦態勢を取る仲間たちにウインクと笑顔を向け、ルインはもう振り返ることなく走る。 「ちっ、メラガイアーッ!!」 (最高位呪文、容赦ないっっ) 背後から響く舌打ちに、魔法使いの本気を見た。背筋に伝う冷や汗は本物だ。 しかし、勢いよく振り上げたオマールの杖からは、炎の業火は現れなかった。 ルインはマントの下から、ひらひらと杖を揺らしてみる。こんなこともあろうかと魔封じしておいて助かった。 「ルイン…ッ、おいーっ!!」 「じゃあね、みんな!」 文字通り、ルインは長い間親しんだリッカたちの宿屋から逃げ出し、セントシュタインから姿を消した。
「ホントにいいワケ?」 「うん」 「あいつらなら、アンタの正体とか知っても引かないと思うんですケド」 「うん」 「ルイン…マジで人間になっちゃうワケ?そんできもすにひとりで挑もうっての?」 「うん」 箱船の中に帰ってきて、アギロとサンディ、三人で向かい合い、ルインは再び女神の果実を手にしていた。 眉を下げ、静かな面持ちのルインを凝視していたサンディはやがて、おぞましく嫌悪するものを口にするかのように、問いかけてくる。 「アンタ…死ぬ気じゃないよね?」 「わかんない」 これにはアギロも顔をしかめた。 「おいおい、そんな調子であの堕天使に挑むつもりか。言っておくが、玉砕覚悟の特攻なら箱船を動かすわけにゃいかねえぜ」 ルインは苦笑する。アギロと、サンディの顔を交互に見つめる。 「考えてる。ずっと考えてる。でもこんな状態で、みんなを巻き込むのは絶対したくないから。とりあえずエルギオスには会ってくる。勝てる気はしないけど」 アギロはさらに顔をしかめ、何も言わずに黙り込んだ。 サンディは、そんなルインを怒りを込めた眼差しで見やる。 「アンタ見てるとさときどき…マジでアッタマイタイ」 「ごめん」 サンディはぷいっと顔を背け、奥の車両へと飛んでいってしまう。 「ごめんね、サンディ」 その背中を、すこし寂しいような気持ちで見送り、ルインは手の果実を、ゆっくりと口に運ぶ。 しゃくり、と歯触りのいい果実は、しかし何の味もしなかった。 (みんなと食べたパンケーキは、あんなにおいしかったのに) しゃくりしゃくりと、おいしくもまずくもない果実を食べ進める。 やがて無言でそれを見守っていたアギロが、食べ終え呑み込んだルインの頭に、ぽんと手を置いた。 「おまえの人生おまえの勝手だ。好きに生きな。けど死んじまったらな、サンディのヤツも、おまえの仲間も、心をいくらか死なすことになんだぜ。覚えときな」 「うん」 ルインの返事は淀みなかった。 先にゆかれ残された空虚さは、ルインだって確かに知ってる。 世界が終わるまで、あと少しの猶予しかないというのに、ルインはまだ考えている。
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