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クエスト163後 結構時間が経った師弟 別館ネタを含みます(ルインに好きな人がいます)
イザヤールは武具の手入れをしていた。仲間達もそれなりに交代で手入れをしていたようだが、イザヤールからすればまだまだ改善の余地があった。 良い武具を長く使うには頻繁に丹念に手入れをした方がよい。そしてそれはやりすぎると言うことはない。 イザヤールは時間があるときはこうして武具の手入れをするか、宿屋でバーテンダーのまねごと(と言ってもひたすらグラス磨きなど雑務だ)をしている。 つまり、外へ修練に出ている以外で、イザヤールを見つけ出すことは容易だった。 「イザヤール」 こちらは、師ほどは探索が容易ではない神出鬼没の少女に名前を呼ばれ、顔を上げる。 「ルイン」 見つめる先の、少女の表情ははりつめて険しかった。 いかなる時も自分の調子を保ちつづけるこの娘が、硬質な気配を身に纏って現れただけで、イザヤールが気を引き締めるには十分だった。 「我が師、ボクと決闘してください」 イザヤールはいつもながら突拍子もないルインの発言に、いやが応にも顔をしかめねばならなかった。 「あれからずいぶん時が経った。ボクも強くなりました。我が師にも負けないような気がする。戦ってみてくれませんか?」 「…今度は何を企んでいる?」 ルインはふと、笑顔になる。それですっかり、先ほどまでの剣幕が払拭され、いつもの弟子に戻っていた。 「企んでるなんて。ひどいなあ。ボクはずっと、我が師と戦って敵うほどの強さを身につけるのが夢だったから」 (それは知っている) おさない天使が抱くには、あまりに大それた想いを、この子は大まじめに掲げていた。 「もう、天使の理にも縛られず、本当の実力で手合わせが出来る。それともイザヤールは、負けるのが万が一にでも怖い?」 「馬鹿を言うな」 鋭く言いはなって、しまったと思ってももう遅い。 単純な挑発に、と言うか反射的に弟子をたしなめるつもりで反論が口をついてしまった。 「じゃあ、いいでしょう?一戦だけで良いから、本気でボクと手合わせをしてください」 「……おまえは…まあ、いいだろう。場所は?」 こうなると、ルインはおのれの手の内を明かすことなく要求を貫いてくる。 「誰もいないところがいいなあ。ウォルロ村の高台なんてどうかな」 イザヤールはひとつ、ため息を吐いた。
箱船で空を駆け、あっという間に崖下をのぞき込めば村を見下ろせる高台に着いた。 風がそよそよと草木を揺らす、ぽよぽよと半透明の種族が隠れて遠巻きに見守っている以外、何の気配もない静かな場所だ。 弟子が、何かの思惑を持って手合わせなどと言い出したのかは、今のイザヤールには解らない。 けれど応じる気になったのは、ルインの瞳に迷いがないからだ。 どのような理由であれルインが考えて決めたことなのだろう。ならば、特に固辞する理由はイザヤールにもなかった。 「ちょ、ちょっとおー、マジでイミフなんですけどおー。アンタ達なんで今さら手合わせなんてしちゃってんの!?」 「心配しないで、サンディ。危険なことはないよ」 「刃物持ってて言う台詞じゃないし!」 「黙って見てな。男にはけじめを付けなきゃならねえ時があるってモンだ」 アギロが渋い声でサンディを注意するが、ルインは女の子である。 まあさておき、離れて見守るアギロとサンディに開始の合図と勝敗の判定をお願いして、ふたりはお互いの間合いをはずれ、対峙した。 「得物は斧で良いのか?」 「もはや剣より手に馴染んじゃったからね」 息を整え、とんとんと足で地面を叩き、ルインはピタ、と武器を構えると口を閉ざす。 表情からも思惑がかき消え、視線はまっすぐに、剣を構えるイザヤールを捕らえる。 「良し、はじめ!」 アギロの合図とともに、先に動いたのはルインだった。地を蹴り一気に間合いを詰めると、イザヤールに肉薄する。 「!!」 イザヤールは、がらりと性質を変えた弟子の気迫に息を呑んだ。 振り下ろされた刃を、流すように受け弾く。 やはり力ではこちらに分があるが、一振りの鋭さはけして軽視できるものではない。 それにルインには身の軽さがあった。イザヤールに押し負けたと悟るやいなや、すぐさま後退して間合いを保つ。 ――――弟子は、本気だ。 本気でイザヤールを「倒そう」としている。 (だが、私とてただで倒されてやるわけにはいかん) 戦士としての矜持。ルインの成長を素直に喜ぶ気持ちがない交ぜになって、イザヤールのなかから懸念を払拭する。 「来いルイン!身の程を教えてやる!」 「…ふふっ。――――はあああああっっ!」 振りかぶられた斧から衝撃波が飛ぶ。イザヤールはものともせずに交わし今度はこちらから仕掛けていく。 いつだったか、この身で受けた切れ味を思い出させる鮮やかな剣戟が迫る。ルインはすべてを見切って交わしていく。 ギイン!ガキンッ!ザシッ! 刃の軌跡が噛み合い空を切り、髪の幾筋や皮膚の薄皮を割いて飛ぶ。 ルインの髪も、人の血も赤いので、赤が鮮やかに散るたびサンディは悲鳴をこらえながらはらはらとした。 「て、テンチョ、ちょ、これ、マジなんですケドー!マジ戦ってるじゃんふたり!やばいんじゃない?止めてよ!」 「だから黙って見てろって…死にやしねえよ…おっ」 ガキン!陽光を弾きながら、ルインの手から斧がはじけ飛ぶ。 振り下ろされた剣が、膝を着いた少女の喉元にぴたりと突きつけられた。 「そこまで!」 アギロが大音声で宣言すると、イザヤールは頬を上気させ肩で息をする弟子を見下ろしながら、高揚醒めやらぬ精神のなか、それでも安堵した。 「ルイン……ぐはっっ!?」 しゃがみ込んだ状態のまま、ルインがイザヤールのその長い足に足払いを掛けた。 イザヤールはまともにひっくり返る。ルインはふところからメテオエッジを取り出すと、尻餅をつくイザヤールの上に馬乗りになった。 「形勢逆転だよイザヤール」 「お、ま、え、はー」 してやったりと言いたげな弟子の凶悪な笑顔に、イザヤールはこめかみを震わせ地を這うような低い声を出す。 「……負けちゃった、あーあ」 ふっと息を吐き出したルインは、メテオエッジをぽいっと放りだし、イザヤールの隣にとっさりと身を投げ出した。 「…ルイン。何かあるなら言いなさい」 「………」 地面に頭を伏せたまま、ルインはしばらく黙ったままだった。 イザヤールに勝ちたかった。早く勝ちたかった。勝ってしまいたかった。 子供の頃からの目標。けして不可能ではないと、何の根拠もなく目指した。 「恋を、してるんだ、イザヤール」 「ああ」 そういえばそういう話をきいたことがある。弟子の交友関係に口出しするつもりはないので、詳しいことは聞いたことはないが。 「日に日に、自分を女の子だって思うの。とても好きで、そのひとを考えるとぼうっとしちゃうことも増えて」 「…そうか」 イザヤールはそれを微笑ましい恋の話として受け取らず、沈んだように聞こえる弟子の声に、伏せたままの頭に手を伸ばす。 そうっと、髪を撫でてやる。 「そうするとやっぱりね、日に日にボクが死んでいくんだ。少しずつ、消えていってしまう」 「………」 ルインが、おのれのことをそう呼ぶようになったのは、いつからだっただろう。 どこかつかみ所のない子供だった。きっと面白がって言い始めたのだろうと思っていたが、ルインは最初から「ボク」ではなかった。 「こどもの頃、イザヤールになりたかったの。男にはなれないから、近くに行きたかった。女の子だから敵わなくて当然と思われたくなかった。気持ちから男の子になろうとしたんだ」 「…誰しもひとは、自分以外のものにはなれはしないぞ」 「うん、だから、私がボクになってしまえば少し近くなると思ったの」 イザヤールは身体を起こし、伏せたままのルインを見下ろす。その表情は見えないが、声からも気配からも、どこか憔悴した様子が伝わってくる。 「……もう、ボクでいられなくなるの、かなしい……」 全身から、虚脱感が漂っている。ルインはここでイザヤールに敵わぬことで、自分の気持ちに決着を付けることにしたようだった。 それは、境界が曖昧のままでいられた、子供時代との決別であり、誰しも寂寥感に駆られるだろう選択だった。 「そうか…」 そしてイザヤールはこの時、ルインがおのれの背をただ目標として追いかけていた、あのころとは別の道を選んだと言うことを理解した。 「それでもおまえは、私の弟子に違いない」 静かな声に、がばりとルインが顔を上げた。 頬が濡れていないことに安堵して微笑みを向ける。金の瞳はまん丸に見開かれイザヤールを見ている。 「なんだ、おまえはもう私の弟子に嫌気が差したのか」 「いいえ」 ぷるぷる、と首を振る。 そうじゃない、そうじゃないけど。形が変わってしまうことにこんなに傷ついている。 「人は変わるものだ。その関係も指標も。けれどそれはさしたる問題ではない」 「…わたし、いざ、やーるに、ボクを殺してもらおうとしたの」 「…死ぬ必要はない。殺す必要もない」 「……ない?」 イザヤールは頷く。ルインの瞳にわずかな逡巡が浮かび、やがて納得の光を宿す。 「このままでいい?」 「人間界には都合の良い言葉があったな。なるようになる、だったか」 「うん」 「おまえもそのようにしてみろ」 頭を少し乱暴に撫でられる。ルインはようやく、安堵のため息を吐いた。 ボクが薄れてしまえば、イザヤールを、今までのように慕うことが出来なくなるかも知れない。 それが恐ろしくてかなしかった。 ああ、けれど言ってくれるのだ。 弟子に違いはないと。ボクのルインも、私のルインも、弟子でいていい。 このままで。 「我が師。我が師ありがとう」 「…まったく、少しは成長したと思ったらおまえはまだまだ未熟だな」 「うん。何よりもね、イザヤールに敵わないままでも良いって、そんなふうに気持ちが変化するのが怖かったの」 物騒ではあるが、師匠冥利に尽きることを言ってくれる。 「おまえはじゅうぶん強くなったとおもうが?」 「うーん、やっぱり敵わないまんまでもいいや」 師匠は、いつまで経っても敵わないから師匠なのだと。そういう考えも、それはそれでいいといまは思える。 ルインはうんうんと頷くと、起きあがった身体の土埃を払う。そして、改めてイザヤールに膝を向けて、ぺこりと頭を下げる。 「我が師、イザヤール。長年のご教授、ご指導有り難うございます。わたし、ルインは近々結婚したいと思っているのです。今日はその報告も兼ねて、このようなことになりました」 「そうか…」
数秒、風がぴゅうぴゅうふく音がすぎて。 イザヤールは我に返った。
「何だと?」
師匠を超えないと嫁に行けないという心境。 結婚式前に我が師とのお話を考えて書いたのですが、公開が色々あって今に至りました。 我が師は衝撃が大きすぎて結婚式前後旅に出て不在とかそうじゃないとか。 (2010.5.28)(2010.6.13)
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