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心なしか、道行く人々の顔も明るいセントシュタインの広場には、いつも人々の関心を集める掲示板が掲げられている。
黒騎士に怯える日々は過ぎ去った。 我がセントシュタインに平和なくらしが戻ってきたのである! 国民一同よろこびを分かち合い 勇敢なる旅人キオリリに 敬意を表したまえ!
現在の見出しはこれである。
「キオリリさん、あんたはこの国の英雄だ!」 「ありがとう、戦士キオリリ!いつだってうちの店に寄ってくれ!」 「おい、僧侶の兄ちゃん!あんたはなんかやらかしてくれると思ってたよ!」 セントシュタインのどこに行ってもこの歓迎ぶりで、とくに持ち上げられるキオリリとガトゥーザは疲れ切った顔で午後の席を共にしていた。 「なんか、釈然としないんだけど」 「…まあな。こんなモンなんじゃねえの」 「確かにアタシたちも黒騎士退治、っていうか問題解決の手伝いはしたけど」 本当手伝った、って感じ。キオリリは続く言葉を切って、向かいのガトゥーザを見やった。 今回の事件は、地震が引き金となって起こった。永き眠りにあった黒騎士が目覚め、永劫続く呪いの鎖を、愛する者によって解かれたのだ。それだけの話。 「…地震が臭ぇな」 「うん。でもほんと、この扱いはしっくり来ないわ。あの妖女の呪いをはねつけたのはルインだし、黒騎士を解放したのは姫様だしね」 「もう黒騎士の話はいい」 ぴしゃりと打ち切って、ガトゥーザは席に面した窓から町並みを眺める。 平和な、光景だ。この街の誰も、黒騎士事件顛末の真実を知るものはいないのだろう。 「…で、チビ共は?」 「あの子達はあんまり顔が割れてないからね。薬草その他諸々買い出しに行った」 「…で、だ」 「で?」 「…東の関所が通れるようになったらしいぜ。どうする?」 「あー、そうだねえ」 まさか、こんなに早く戻ることになるとは思わなかった。
ベクセリアは入り組んだ構造の、立派な石畳で囲まれた街だった。 もう陽も落ちる時刻に到着したからだろうか。闇に紛れそうな冷たく素っ気ない石壁に、城砦みたい、とルインは印象を抱く。 先に門をくぐったガトゥーザとキオリリに、出迎えた見張りの男は驚きの声を上げる。 「ガトゥーザに、キオリリじゃないか!なんだお前達、帰ってきたのか!」 「たまたま寄っただけだ、たまたま」 「まあ、と言うわけで長居はしない予定だけど、みんなは元気?」 (そういえば二人はここの出身だっけ) 自己紹介を思い出し、オマールと共に二人に追いつく。すると、ルインも出迎えた男の顔色の青さに気がついた。 「…もう、この街は終わりかも知れない」 ガトゥーザとキオリリは眉間に皺を寄せる。 いま、この街では謎の病が流行っているらしく、その状況は深刻らしい。 病状は重く、ろくに起きあがることも出来ないまま高熱が続く。幸い死者はまだ出ていないが、このままでは体力の弱い老人子供から、と言うのも時間の問題という。 「オイ、オヤジ!!」 ガトゥーザ達は簡単な話だけをきくと、真っ先に教会へと向かった。 教会内で祈りを捧げていた神父とシスターが、ぎょっとしたように突然の闖入者に顔を上げる。 「ガトゥーザ、お前…?」 「聞いてねえぞ、おい!なんで手紙のひとつもよこさねえんだ!この病はいつから流行ってんだよ!」 挨拶のひとつもなくまくし立てる男の形相に気圧されたのか、それでも慣れた様子で、神父はゆっくりと口を開いた。 「少し前の、地震があってからだ…これは我がベクセリアに神が下された試練であると…旅だったお前達に余計な心配をかけるまいとしたのだ」 戻ってしまったのか、と肩を落とす中年の男の白い顔色に、ガトゥーザは怒り心頭、と言った様子で歯を食いしばっていたが、結局何も言わずに舌を打つ。 「…オヤッさんはなんて言ってる?」 「町長は原因の解明に全力を尽くされておいでだ。どんな薬草も回復呪文も効き目がない」 私たちの手は尽きた。あとは多くの蔵書を抱える町長の策に頼るしかない。 「ああそうかよ。結局オヤッさんを締め上げるしか本当の進捗状況はわかんねえってことか」 「ガトゥーザ!」 吐き捨てるように言い、呼ぶキオリリとぎょっとする神父に背を向け、ガトゥーザはひとり教会をあとにしていく。 オマールは肩をすくめ、ぼうっと教会のステンドグラスを見上げるルインを一瞥したが、無言でガトゥーザ達を追って立ち去っていった。 「ああ…守護天使様はどうして我々にこのような試練を下されるのか」 頭を抱え、教壇にうなだれる神父に、今までのやりとりを聞いていたのかも怪しかったルインが突然顔を向ける。 「守護天使は守護する街に試練なんか与えないよ」 「きみは…?いや、しかし、では何故このような無慈悲なことが許されるのか…」 「うん」 (ベクセリアの守護天使は二人だっけ) こんな騒動になっているなら、どっちかだけでも助けに来ればいいのにと思う。 …助けに来られないのだろうか。もしかしたら天使界では、自分が思うより大変なことになっているのだろうか。 「ボクはルイン。えーと、ガトゥーザのお父さん?」 「…はい。あの子は私の本当の子ではありませんが」 父、と呼ばれるほどの者ではない、神父はゆっくりと首を振る。 「私はここで、ただこの場所で、神を信じ祈るだけです。かなしいことではありますがあの子とは違う」
あれー、みんなどこに行ったんだろう。 後れをとったルインは、教会を出て誰の姿も見あたらずに途方に暮れた。 街はとっぷりと日が暮れており、本当にひとけがない(病気が流行っているようだし、当然か) 「こんばんは、ご老人」 「なんじゃ、おまえさん。わしが見えるのかね?」 教会の前に墓石が並んでいたので、近寄って佇む老人に声をかけてみた。 「さっき教会から人が出て行かなかった?っていうか町長のお家ってどこ?」 「町長の家は街の一番北、高台の屋敷じゃが…」 「ありがとう。とっても助かるよ」 半透明の老人に頭を下げ、ルインは小走りで北に向かって走っていく。 「ちょっとー!ぼーっとしすぎ!アンタが張り切らなくっちゃオーラが手に入んないじゃん!」 抱えた道具袋から不満の声。ルインにも悪いという気持ちはあるのだが、オーラも欲しいし帰りたいという気持ちもあるのだが。 (急ごう。あの人間たちを見ていたい) 訪れた街で直面した事態に、ガトゥーザ達がどのような反応を見せどのような行動をとるのか。 ルインはひどく興味を煽られている。人間界におけるすべてが魅力的に見えてならないのだった。 「不謹慎不謹慎」 「そーよ!わかったらちゃっちゃと人助け!」 「はーい」 駆けながら、ベクセリアを包む重く沈む空気を肌で感じる。 病に苦しみ、人の生の営みが停滞しよどんでいるのが解る。 でもこれって不自然な感じなんだよなあ、むりやり歪まされてる感じ。 人為的なものを、ルインのわずかに残った天使の感覚は捉えている。だったら何とかなる。 この街を救うことはきっと出来るだろう。だからルインは余裕を持って構えていられる。「…ん?ここ、かなあ?」 方角を確かめながら進んでいたが、屋敷とはほど遠いこじんまりとした一軒家にたどり着いてしまった。 もしかして間違えたかな、もう一度道を尋ねるか、とルインは目の前の扉をノックする。 「はーい!どなたですかあ?」 若く弾んだ声が聞こえてくる。ルインは礼儀正しく出来るよう心がけた。 「ごめんください。道をお尋ねしたいのですが」 「はーい。ちょっと待ってくださいねえ」 思ったより警戒心の欠片もなく、あっさりと扉が開かれた。 顔を出したのは、緑のつややかな髪をピンクのリボンで結んだ、少女のような印象の女性。 「こんばんは。お姉さん」 「こんばんわあ。どこに行きたいのかなー?」 可愛らしく首を傾げられる。こりゃー、ガキ扱いされてるっしょ、サンディの呟きがきこえたが構わず笑顔で頷く。 「町長さんのお家」 「パパ…じゃなかった、町長のお家に行きたいの?ここからだとすぐよー。こう回って、あっちの階段を上るとお屋敷があるの」 「そっか。教えてくれてどうもありがとう。町長さんの娘さんなの?」 聞き漏らさなかったルインは重ねて尋ねる。女性はおっとりと頷いた。 「そうなの。今はお嫁に行ったからここで暮らしてるんだけどね。新婚さんなんだよー。きゃっ、恥ずかしいー!」 頬を染めて身をよじる、幸せそうな女性の様子に、ルインは何だか和んでしまう。 (よくわからないけど、かわいいなあ、この人) どこもかしこも、暗く重苦しい気配のベクセリアで、明るくあたたかな気配のものを初めて目にした。 「パパになんのご用?」 「今、この町って変わった病気が流行ってるんだよね。その話をきこうと、ボクの仲間達が」 言いかけて、ルインは口を閉ざして後ろを振り向く。 背後の見えている、女性には何があるのかわからない。どうしたの、といったん尋ね、ぱっと思いつくように表情を明るくさせる。 「病気のことだったら、きっと大丈夫!パパも調べてくれてるし、ルー君がきっといい考えを見つけてくれるから!」 「……そいつぁマジだろうな、エリザ」 ルインの視線の先、曲がり角の向こうから、よく知る男が顔を出す。 眉間に深い皺を寄せた、緑の髪のガトゥーザだ。 後に続くように、キオリリ、オマールとやってくる。三人ともルインの姿に驚いたようだが。 もっと驚いたのは、ルインと今まで話していた女性のようだった。 「ガッくん!キオちゃん!二人とも帰ってきたのー!?」 どこまでも気の抜けるような、ほがらかで純粋な呼びかけに、二人ともへなへなと脱力しそうになる。 「…ガッくん?」 「チビうっせえひっこんでろ」 なんでてめえがいやがる的な怒りも込めて、アイアンクローをかまされる。 女性、エリザはきょとんと目をまたたいていたが、お客さんが大勢来たことには気がついたようで。 「お家の中へどうぞー。うふふ。たいしたおもてなしは出来ませんが!」 奥様っぽく振る舞えることが嬉しくて仕方がない、と言った様子で、ドアの中に四人を招いた。
思ったより長くなりそうなベクセリアofガトゥーザ話(?) このタイトル編はリュウキさんに捧げます。
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